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東京高等裁判所 平成10年(ネ)4675号 判決 1999年3月30日

控訴人(原告) X

右訴訟代理人弁護士 齋藤晴太郎

同 伊達弘彦

同 園部昭子

被控訴人(被告) 昭和総合開発株式会社

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 高山征治郎

同 亀井美智子

同 中島章智

同 高島秀行

同 石井逸郎

同 楠啓太郎

同 宮本督

同 吉田朋

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、控訴人に対し、一四四〇万円及びこれに対する平成九年一二月一九日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

四  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求める裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、一四四〇万円及びこれに対する平成九年一二月一九日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え(当審において請求減縮)。

3  訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

4  仮執行宣言

二  被控訴人

控訴棄却

第二事案の概要

本件の概要は、原判決の事実及び理由の「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、控訴人は、遅延損害金の起算日を平成九年一二月一九日に変更し、請求の一部を減縮した。)。

第三争点に対する判断

一  控訴人と被控訴人との権利関係は、原判決書五枚目表四行目から同裏一行目に記載のとおりであるから、これを引用する。

ところで、会則六条は、預託金の返還時期につき、「天災、地変その他クラブ運営上やむを得ない事情があると認めた場合は、理事会及び取締役会の決議により返還の時期、方法を変更することがある。」と定めていることは、前示のとおりである。

しかし、預託金会員制のゴルフクラブの会員は、会則に従ってゴルフ場を優先的に利用し得る権利及び年会費納入等の義務を有し、入会の際に預託した預託金を会則に定める据置期間の経過後に退会の上返還請求することができるものというべきであり、会員が約定の据置期間経過後預託金の返還を請求することができる権利を有するということはこの種契約関係における基本的な権利の一つであるということができ、据置期間経過後会員権を保有することを必要としなくなった会員が、会員権市場において会員権を売却するか、ゴルフ場経営会社に対し預託金の返還請求権を行使することにより会員権取得に要した資金等を回収することを期待するのは当然のことであるといわなければならない。したがって、右会則に定める据置期間を延長することは、会員の契約上の権利を変更することにほかならないから、会員の個別的な承諾を得ることが必要であり、個別的な承諾を得ていない会員に対しては据置期間の延長を主張し得ないものと解すべきである(最高裁判所昭和五九年(オ)第四八〇号・昭和六一年九月一一日第一小法廷判決・判例時報一二一四号六八頁参照)。

右のとおり預託金返還請求権が会員の基本的な権利であることや会則六条の「天災、地変その他クラブ運営上やむを得ない事情があると認めた場合」という規定の趣旨、文言に照らして考えれば、右規定にいう「その他クラブ運営上やむを得ない事情があると認めた場合」とは、天災地変に比すべき事情の変更のあることが必要であると解するのが相当である。ところが、バブル経済の崩壊等被控訴人が主張する経済変動は、たとえそれが被控訴人の予期せぬものであったとしても、据置期間の到来は所与の事実であり、その間の経済変動については、当然に考慮しておかれるべき事柄であるというべきであるから、これをもって、天災地変に比すべき事情の変更ということはできず、他に右事情があると認めるに足りる証拠はない。また、仮に右決議どおり据置期間を一律に五年間延長したとしても、被控訴人の経営状態や被控訴人を取り巻く経済環境が必ず好転すると認めるべき的確な証拠もない(被控訴人が援用する乙一一によってもこれを認めることはできない。)ことを考えれば、本件延長決議に合理的な理由があるとは認めがたい。したがって、会則六条に規定する事由があると認めることはできないから、本件決議をもって被控訴人は控訴人に対し本件預託金の据置期間の延長を主張することはできないものといわなければならない(仮に、被控訴人の主張するように多数の会員が本件延長決議に同意したとしても、本件延長決議の効力が当然に控訴人に及ぶ理由はない。また、被控訴人の当審における主張では、九〇〇名弱の会員の内、約四五〇名に対し据置期間の延長について説明し、約三五〇名が同意した旨主張するが、これを前提としても、据置期間延長を同意した者の数は全会員数の半数にも充たない。)。また、乙二、一一によれば、被控訴人は、本件延長決議に併せて、会員権の換金価値を少しでも高めるために、本件ゴルフクラブの各会員に対し、被控訴人の系列ゴルフ場であるサイプレスカントリークラブのゴルフ会員権を一口提供することとし、それを実現する方法として預託金を二口に分け、一口を従来どおり本件ゴルフクラブの会員権のための預託金とし、他の一口をサイプレスカントリークラブのゴルフ会員権のための預託金とすることを内容とする会員権の分割を行うことにより、会員に据置期間延長の代償措置を講ずることも決議したことが認められるが、右の事実があるからといって、前記認定判断を動かすことはできない。被控訴人の右主張は採用することができない。

二  よって、控訴人の被控訴人に対する本件請求(当審で減縮後のもの)は理由があるので認容すべきであるところ、これと異なる原判決は相当でないからこれを取り消し、控訴人の本訴請求を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条二項、六一条を、仮執行宣言について同法三一〇条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川英明 裁判官 宗宮英俊 長秀之)

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